中小企業NEWS特集記事

「小松精機工作所」超精密加工技術を核に、環境変化に応じ柔軟に事業転換

この記事の内容

  • 時計から情報機器、自動車へと転換
  • 下請けから自立、世界シェア3割に
  • 次代を見据え、次世代材料の開発も
小松精機工
ノズル部品を手にする小松社長(諏訪市の本社事務所で)

「新価値創造展」の出展企業の中から選ぶ「新価値創造賞」を2018年まで3年連続で受賞した企業が長野県諏訪市にある。時計部品や自動車エンジンの電子制御燃料噴射装置向けノズル部品などを手がける小松精機工作所である。

展示の目玉は「3次元構造部品のマイクロ精度製造技術」(金属MEMS=微小電気機械システム)。板厚0・01ミリメートルのステンレス金属箔に、複数の異形穴を1回のプレス加工で打抜き、打ち抜いた金属箔を低温で複数枚拡散接合し、マイクロポンプ用部品とする製造技術だ。

従来は半導体プロセスでしか製造できなかったMEMS部品を金属で可能にし、大幅なコスト削減を実現。シリコン製品の3倍の吐出量を持ち、点滴ユニットなど医療機器分野への応用を視野に入れる。自由曲面へのレーザー加工技術や、血管治療用治具にも注力するなど、絶え間ない新分野への挑戦が評価された。

小松滋社長の祖父が同社を創業したのは1953年(昭和28年)。現在のセイコーエプソンの協力会社として腕時計の組み立てからスタートし、表面処理やプレス加工へと徐々に製造領域を拡大した。

ところが70年代後半に転機が訪れる。時計市場の成熟化に伴い、エプソンから自立を促された。そこで時計で培った超精密加工技術を応用し、ハードディスク駆動装置(HDD)の読み取り部品を製作。情報機器分野に81年に進出した。

その際、創業者は「長野県外の仕事を取りに行け」と独自の営業を展開した。その結果、パナソニック、ソニー、NEC、富士通など有力電機メーカーから受注を勝ち取った。「祖父は地元で競争してもコストが厳しくなるだけと考えた」と小松社長は明かす。

ただ現在、情報機器分野の売り上げはほとんどない。90年代に電機各社が海外生産にシフトしたためだ。

代わって今の小松精機を支えるのは自動車分野だ。現在の売上比率は自動車が98%、時計などが2%。納入先はデンソー、独ボッシュ、米デルファイなど名だたる自動車部品メーカーが並ぶ。電子制御噴射装置のノズル部品を月700万個以上生産し、世界シェアは3割を占める。

「80年代に燃料噴射の電子化が進み、部品メーカーから声がかかった」という。ノズル部品は従来、ドリル加工や放電加工で生産されていたが、プレス加工化を実現。大幅な時間短縮とコスト削減を可能にした。

2002年にはデンソーの要請で、タイに工場進出。現在約750人のタイ人が働く。優秀な従業員を選抜して諏訪市の本社工場で実習する機会も設けた。

時計部品の成熟化、情報機器の海外生産シフトという2度の危機を乗り越え、時計から情報機器、さらには自動車へと〝戦う土俵〟を転じてきた小松精機。ただ懸念材料がないわけではない。進行する車の電動化の潮流であり、とりわけ電気自動車(EV)は同社の主力製品が不要になる。

これに対し、小松社長は「すべてがEVになるわけではないし、車自体は新興国を中心にまだまだ増える」と言い切る。現に増産を受けて、17年に本社敷地内に新工場棟を建設したほか、タイでも18年に10億円を投じて工場を増築した。

小松社長が祖父、父、叔父に続き4代目の社長に就任したのは17年6月。「とにかく会社を潰さないことを常に考えてきた」という。次の時代を見据え、強みである精密プレス加工技術に磨きをかける一方、次世代材料などの研究開発に一層力を入れる考えだ。

企業データ

企業名
小松精機工作所
Webサイト
設立
1953年6月
従業員数
従業員数260人(男性175人・女性85人)
代表者
小松滋氏
所在地
長野県諏訪市大字四賀桑原942-2
Tel
0266-52-6100
売上高
78億円(2017年度)