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「堀切運輸」人材育成の現場から

この記事の内容

  • 曲折を経て経営後継者になることを決断
  • 笑顔で接し、社員との〝つながり〟大切に
  • 安全を最優先して安定した経営を

「自社分析をして経営者の苦労が分かり、誰よりも自分の会社が好きになった」。2013年秋から中小企業大学校東京校の経営後継者研修を受けた感想を話すのは、堀切運輸の奈良典子取締役だ。

奈良氏が後継者となる決意を固めるまでには曲折があった。都内の看護専門学校を卒業後、17年間看護業務に携わった。この間、結婚して2子を設けたものの、離婚を経験。子供の将来を考えて子育てを元夫に託すが、自身は「抜け殻のような毎日だった」。

その頃、段ボール原紙などを輸送する堀切運輸は、社長を務める父親が高齢となったため後継者を探していた。だが、適任とされていた従業員が他界するなど、決まらない状況が続いた。この話を聞いた奈良氏は「こんなチャンスは二度とない」と思い、父親に「後を継ぎたい」と伝えたところ、同族の承継を嫌がったものの、ほかの候補が見つからないため、13年4月に平社員として入社する。

とはいえ、未経験の会社務めだけに高い壁があった。最初は電話番をしていても業務内容が分からず、「椅子に座っていることがつらかった」。そんな時、父親から経営後継者研修の受講を勧められ、同年10月に入校した。同社は04年以降、中小企業大学校に管理職10人程度を研修派遣した実績があったからだ。

ただ、ここでも壁に突き当たる。経営戦略も財務も研修内容はなじみのないものばかり。何より「パソコン操作も苦手だった」。だが「できないのは人より経験がないだけ」と考え、研修を受けながら自社の管理職やドライバーらに社内の問題点などを聞き、同期の研修生にも教わって習得。卒業時には「知識を増やしただけでなく、仲間とのつながりを大切にすることを知り、後継の覚悟ができた」

卒業前に役員になって自社に戻ったが、経営者として扱われず、奈良氏の存在を認めない社員もいるなど「本当に継いでいいのか」と悩み、仕事が手につかない状態に陥った。

壁に突き当たってもくじけないのが奈良氏の真骨頂。「できることから始めよう」と、分からないことはしっかり聞くなど社員との対話を心がけたところ、「ビジョンを持ち、笑顔で接して社員が働きやすい職場にすることが自分の役割」と気付いた。看護師の経験を活かし、健康管理のため診断記録を作成して個人面談を行う。ドライバーの帰社時間はまちまちだが、できるだけ帰りを待ち、グチでもいいから会話するよう心がけている。

実は、来年6月末に経営を委譲することを伝えられている。奈良氏は自社の強みについて、「ドライバーの平均年齢が若いこと、取引先の仕事は断らないこと」と即答。何より運輸業に必要な安全を最優先し、「2カ月に1回は安全会議を開いている。無事故表彰制度も設けており、ここ5年間は大きな事故がない」ときっぱり。一方、弱みは「ドライバー間の安全意識がずれているので、体制を考えたい」。

経営方針については、現経営陣の考えを踏襲し、守破離の守で進め、教育・IT化で効率化を進めるなどビジョンができてきた。人材育成では、昨年から中小企業大学校の管理職向けコースへの研修派遣を再開し、「今後も続けたい」と話す。

後継者となることを決意してから3年。奈良氏は来年の〝代表者〟就任を見据え、確かな歩みを踏み出した。

企業データ

企業名
堀切運輸株式会社
設立
1961(昭和36)年12月
資本金
1500万円
従業員数
48人(パート含む)
事業内容
段ボール原紙、板紙等の運送